seigoy's diary

旅人間。山やスキー場、京都、アジア中心に彷徨ってます。それに伴って、カメラや車、パソコンが大好き。

正義と微笑

パンドラの匣 (新潮文庫)

パンドラの匣 (新潮文庫)


太宰作品の中で結構有名な『パンドラの匣』の中には、表題作の他に『正義と微笑』も収められていた。『パンドラの匣』の一部としてあるのが勿体ないくらいのいい作品だったから、『パンドラの匣』を読む前に感想を書こうと思った。
この作品は旧制中学から青春時代を日記にして進んでいく。太宰自身の私小説ではなく実際に読んだ他人の日記に手を加えたものらしいけれど、青春時代の悩みやひた隠しにする喜びなどが実にリアルに書かれている。戦時中に書かれたものなのに現代でもうなずける、心の葛藤の表現はさすがとしか言いようがない。
特にいろんな事を経て入った大学に絶望したところで、信念を貫いて役者を目指していく課程は良かった。自分も大学に入って絶望したくちなんだけれど、そのままズルズルと流されてしまっていた。あの時にこの本に出会えてたらと思うも、今だから読んで良かったと思える気もする。
また、要所要所に出てくる聖書の言葉も良かった。聖書なんかは興味もないのに、この本の流れにあると素直に入ってくるから不思議。一番心に残ったのは…
「なんじら断食するとき、偽善者のごとく、悲しき面持ちをすな。」
太宰作品をいくつか読んでいると、意外にも希望ある作品が多くて、ますます読んでいきたくなってくる。